社員が増え、会議室の予約が取りにくくなった。書庫の前に机を足したら、書類を取り出すたびに誰かが席を立つ。移転先を探してみたものの、希望する広さの物件は賃料が高く、内装や引っ越しにもまとまった支出が必要??。そんなとき、今のオフィスを改修する方法が選択肢になります。

三鬼商事の調査では、2026年9月の東京ビジネス地区の平均賃料は坪当たり23,985円で、前年同月比13.72%上昇しました。対象は都心5区の基準階面積100坪以上の主要貸事務所ビルで、賃料は原則として新規募集条件です。全国の小規模物件や、現在の契約賃料が同じように上がるという意味ではありませんが、移転費用を慎重に考える背景の一つといえます。

リノベーションでできるのは、見た目を新しくすることだけではありません。間取りや動線を組み直し、家具と設備を活かして、仕事に合う空間へ変えることです。この記事では、約40坪、14人から18人への増員を予定する会社を仮想例に、改修計画と費用の考え方を解説します。

  • ・移転と改修を比較するための費用と使い方の整理
  • ・間取り・動線・内装の見直しと既存家具の活用
  • ・営業を続けながらの改修計画と予算の優先順位
1.

移転と改修は、数年先の使い方まで比べる

1-1.「今の場所に残る方が安い」と、最初に決めない

移転には、新しいオフィスの内装、家具、引っ越し、通信の切り替え、現在のオフィスの原状回復などが関わります。さらに、契約期間が重なる場合の二重賃料や、敷金・保証金などの資金準備も必要です。

一方、現オフィスの改修でも、間仕切りの撤去、床や壁の補修、設備の移設、仮の作業場所の確保などに費用がかかります。残る案では引っ越し費用を抑えられても、既存の状態によって工事が複雑になることがあります。

比べたいのは「移転費対改修費」という一項目だけではありません。同じ期間で、家賃・共益費などの継続支出と、それぞれの初期費用、業務への影響を並べます。敷金のように返還され得る資金は、工事費などの支出と分けておくと判断しやすくなります。

1-2.賃料差と、改修で使える年数を合わせて考える

たとえば移転先の賃料・共益費が現オフィスより月10万円高いと仮定すると、条件が変わらない3年間の差額は360万円です。これは考え方を示す計算例で、実際の物件相場や工事費の目安ではありません。

この差額だけで改修予算を決めるのも早計です。現オフィスの更新条件、残る期間、退去時の復旧、移転先の賃料条件なども合わせて比較します。改修後すぐに人数が収まらなくなるなら、何度も工事をする負担が残ります。

14人から18人への対応と、さらに増える場合の配置を描いてみる。安全な通路や会議スペースを保ったまま使えるかを確認し、改修で対応できる範囲を見極めます。面積や設備に限界がある場合は、増床や移転の検討も並行して進めましょう。

2.

工事を考える前に、増員と会議室不足の原因を分ける

2-1.座席不足は、家具の数だけの問題ではない

仮想例のオフィスでは、執務席14席、六人用会議室が一つ、壁沿いに書庫が並んでいるとします。4席追加したいからといって、机が置けそうな場所を先に探すと、通路や収納の使い勝手を犠牲にしがちです。

まずは、全員が毎日出社するのか、外勤や在宅勤務があるのか、同時に何人が仕事をする日まで対応するのかを整理します。そのうえで、専用席が必要な仕事と、共有席でも支障がない仕事を分けます。

平均出社人数だけで席を減らせば、出社が重なる日に不足します。反対に、全員分の固定席を設ける必要がない職場もあるでしょう。席数は、人数と仕事の条件を踏まえて決めるものです。

2-2.会議室は、予約人数と実際の使い方を見る

六人用会議室が一人のWeb会議で埋まっているなら、会議室の面積が足りないというより、用途の受け皿が足りない可能性があります。二週間ほど予約状況を見て、利用人数、時間帯、会話の内容に必要な機密性を整理してみてください。

一人用の会議スペースを設ければ、通常の会議室を複数人の打ち合わせに戻せる場合があります。ただし、採用面接や機密性の高い商談を、囲いのない席へ移すわけにはいきません。

「部屋をもう一つつくる」と決める前に、どんな会議の場所を増やすのかを明らかにします。短い相談、Web商談、社内会議では、必要な広さも音への配慮も異なります。

2-3.図面と現地で、今の家具・設備を把握する

改修の出発点は、現在の状態を正確に知ることです。賃貸面積が約40坪でも、柱、設備、入口などの位置によって、使える配置は変わります。

管理会社から図面を入手し、現地の寸法と照合します。古い図面には、その後に追加した間仕切りやコンセントが反映されていないこともあるためです。

現地調査では、次の内容を一緒に記録しておくと計画が進めやすくなります。

  • 家具の寸法・数量・状態と、残す家具の候補
  • 出入口、柱、窓、天井高、床の段差
  • 電源・通信、照明、空調、消防設備の位置
  • 人がよく通る場所と、立ち止まりやすい場所
  • 改修したい範囲と、業務上動かせない機器

見た目を整える案と、実際に施工できる案を近づけるための基礎資料です。

3.

間取りと動線を組み直し、使える面積を取り戻す

3-1.家具を詰める前に、通る場所を決める

入口から執務席、会議室、複合機、避難口へ向かう動きを図面に入れます。人が頻繁に通る線に椅子や収納の扉が重なると、その場所で小さな待ち時間が生まれます。

机が置ける寸法と、座って仕事ができる寸法は別です。椅子を引く範囲、書庫を開ける範囲、荷物を運ぶ動作まで考えます。必要な通路幅は用途や建物の条件で異なるため、家具間の空き寸法だけで安全性を判断しないようにします。

仮想例なら、書庫の前へ4席を足す案と、収納を集約して机の島を組み直す案を比較できます。追加する場所だけでなく、既存14席の使い勝手も変わるかを見てください。

3-2.固定の会議室と、変更できる場所を使い分ける

機密会議のための個室は必要でも、すべての相談場所を天井までの壁で囲う必要はない場合があります。短い打ち合わせには家具式の囲い、少人数の会議には小さな個室など、用途に合う方法を選びます。

ただし、上部の開いた間仕切りでは音が出入りします。ガラスを使えば開放感は得やすいものの、遮音や反響はガラスの仕様、扉、周囲の納まりまで含めて検討する部分です。

将来移設できるシステム間仕切りを採用する案もありますが、移設時には部材の再利用条件と工事費が伴います。「変更しやすい」と「費用をかけずに変更できる」を混同しないことが大切です。

3-3.増員後と、その次の配置を一緒に描く

18席を収めた図面だけでなく、さらに2人増える場合も描いておくと、最初に固定する壁の位置を判断しやすくなります。机の島を伸ばす場所に会議室を新設すると、その後の変更が難しくなるかもしれません。

場所 今回の改善案 次の変更をしやすくする工夫
執務エリア 既存机を並べ直し、不足分を追加 追加する机の寸法と配置先を決める
通常の会議室 複数人の会議に使える状態を戻す 一人用Web会議の受け皿を分ける
収納 内容を整理し、必要量を集約 移動先と増減できる範囲を残す
小さな打ち合わせ席 利用人数に合う家具を配置 移動可能な家具の置き換え案を持つ
電源・通信 新しい席へ必要な接続を整える 将来の増設経路を設備担当者と検討

使える席数は、出入口や設備、仕事の条件を確認して決めます。この表は配置を検討するための例で、約40坪なら必ず18席以上置けるという基準ではありません。

4.

床・壁・照明は、見た目と仕事のしやすさを合わせる

4-1.床は、張り替える範囲と下地を見て決める

入口や複合機の周囲だけ床が傷んでいるなら、部分的な張り替えも候補になります。タイルカーペットでは必要な範囲を交換しやすい一方、同じ品番でも既存部分の使用による色の変化で差が見えることがあります。

通路と執務エリアの色を分ける方法なら、張り替え範囲を意図したデザインにできます。ただし、床材の厚さが変わる箇所では、段差やドアの開閉、椅子の動きまで確認が必要です。

既存床の上に新しい材料を施工できるかは、下地の状態や製品仕様によります。浮き、傷み、OAフロアの点検への影響も含めて判断し、材料単価だけで費用を見積もらないようにします。

4-2.壁の仕上げを変えるだけでは、音漏れは止まらない

壁紙の張り替えや塗装は、汚れや色のばらつきを整える方法です。すべての壁を変えなくても、入口や打ち合わせ席など、印象を変えたい面を絞る案が考えられます。

一方、会議室の声が響く、外へ漏れるという悩みには、仕上げの変更だけで対応できないことがあります。室内の反射を減らす吸音と、室外への音の通過を減らす遮音は、役割が異なります。

会議室をつくり直すなら、壁だけでなく、扉の隙間や天井裏、設備の開口部も確認します。きれいな壁になったのに会話の内容が廊下で聞こえる、という結果を避けるには、見た目と音の目標を分けて設計することが必要です。

4-3.照明は、新しい机と画面の位置に合わせる

机を動かすと、以前はちょうどよかった照明が頭の後ろへ移り、手元に影ができることがあります。画面への映り込みや、窓際の逆光も、家具を並べた状態で確かめたい項目です。

LED化を検討する場合も、器具を交換するだけで使いやすくなるとは限りません。必要な明るさ、光の広がり、まぶしさ、点灯する範囲を仕事に合わせて考えます。照明設計では、器具の輝度やグレアも確認事項となります。

電気代の削減効果は、既存器具の消費電力、台数、点灯時間などによって変わります。「LEDにすれば何%安くなる」と一律に言わず、既存と新設の条件で試算しましょう。器具の変更には管理会社の承諾や電気工事の調整も関わります。

5.

既存家具と中古間仕切りを、現場に合わせて活かす

5-1.使える家具を残すと、工事の優先順位を立てやすい

既存机が仕事に合い、問題なく使えるなら、18人へ増えるために全台を買い替える必要はありません。まずは、残す、移す、整備する、追加する家具を分けます。

机の高さや奥行きをそろえて並べ直す。収納を集約し、会議用テーブルを短い打ち合わせに転用する。こうした変更で改善できる部分があれば、新しい壁や床へ回す予算の考え方も変わります。

家具を残せば費用がゼロになるわけではなく、移動、分解・再組立て、保管、再設置に費用がかかる場合があります。継続使用と買い替えは、状態と使い始めるまでの総額で比較します。環境省も、使用期間を延ばす再利用が廃棄物の発生抑制につながると説明しています。

5-2.中古間仕切りは、パネル代より「使える状態にする費用」

中古間仕切りを活用するなら、設置先の天井高、必要な幅、ドア位置、部材の数量が合うかを先に確かめます。パネルがそろっていても、柱、レール、連結部材、ドアまわりの部品が不足すれば、そのまま施工できません。

天井まで届くタイプと、床に置く家具式パネルでは、設置方法も検討事項も異なります。高さの調整や加工ができる範囲、異なるシリーズとの互換性、表面の傷や変形を施工会社に確認してもらいましょう。

比較する総額には、運搬、選別、清掃、加工、新品部材の補充、施工を含めます。中古だから必ず安くなる、同じ広さなら新品と同じ性能が得られる、とも言えません。必要な遮音性や安全性を満たし、施工後の対応まで確認できるものを選びます。

6.

営業を続けながらの改修は、業務の予定から工程を組む

6-1.区画ごとに進めるなら、仮の仕事場所を先に確保する

仮想例で窓側の席を先に改修するなら、そこに座る社員が工事中にどこで仕事をするかを決めます。空いている会議室へ移す案では、来客や社内会議の代わりの場所も必要です。

家具移動や配線工事は、内容によって業務を続けながら行える場合があります。一方、解体など音が大きい作業は、夜間や休日に分けるなどの調整が必要になります。コクヨマーケティングも、作業内容に応じてビル管理と日程を調整する進め方を案内しています。

在宅勤務を使える部署と、電話・窓口対応など現地に残る部署では条件が違います。工程表に「工事する場所」と「仕事をする場所」を並べると、両方が成立するかを確認しやすくなります。

6-2.音・粉じん・においと、電源・通信停止を分けて調整する

休日施工を選んでも、月曜の朝にすぐ使えるとは限りません。塗料や接着剤の乾燥、清掃、換気、設備の試験などを終えてから、業務へ引き渡す必要があります。

電源やネットワークを止める作業は、請求処理、入出金対応、オンライン商談の予定と照合します。「土曜なら問題ない」と決めず、バックアップ処理や休日当番の仕事も確認してください。

工事中の資材置き場、仮囲い、通路も計画の一部です。営業を続けるために人を狭い範囲へ詰め込むと、作業と避難の双方に支障が出ます。施工範囲と利用範囲を明確に分け、必要に応じて一時的な休業も比較します。

6-3.分割工事の便利さと、費用増の両方を見る

何回かの週末に分ければ、一度に移動する家具を減らせる場合があります。ただし、工事のたびに養生、搬入、清掃、家具移動を繰り返せば、手間と費用は増えます。

夜間・休日の作業条件や、ビル指定の搬入時間も見積もりに関わります。短い作業時間では終わらない工程があれば、日程の延長や別の進め方が必要です。

一括施工、区画分け、仮オフィスの利用について、工事費だけでなく、社員の移動負担と停止できない業務まで比べましょう。最も短い工期が、会社にとって最も負担の少ない工程とは限りません。

7.

費用は項目ごとに分け、残すものと後回しにするものを決める

7-1.坪単価だけでは、部分改修の費用はつかみにくい

同じ約40坪でも、床を張り替える工事と、会議室を増設して空調・消防設備を変更する工事では費用の構成が違います。既存の下地、工事範囲、搬入、指定業者なども影響します。

見積書では、次の項目がどこまで含まれるかを確認してください。

費用項目 確認したい範囲
調査・設計・管理 現地調査、図面、設備調整、必要な調査・手続き対応
撤去・補修 既存間仕切りの撤去、壁・床・天井の復旧
内装・間仕切り 面積、仕様、ドア、吸音・遮音への対応
設備 電源、通信、照明、空調、消防設備の変更
家具 新品・中古の購入、移動、組立て、固定
仮設・搬入・処理 養生、資材運搬、仮の作業場所、廃材処理
工事条件による費用 夜間・休日施工、分割施工、指定業者対応

「設備別途」「補修別途」とある項目は、担当者と追加見積もりの時期まで確認します。予算には、調査段階で残る不確定事項に対応する余裕も持たせ、使える額を最初からすべて材料代へ割り振らないようにします。

7-2.削るなら、困り事の解消との関係を見直す

予算が足りないときは、すべての工事を少しずつ削るより、改善したい問題との関係を整理する方が判断しやすくなります。

  • 先に解消するもの: 安全上の問題、席不足、業務を妨げる動線や設備不足
  • 今回まとめて行うか検討するもの: 間仕切りに伴う床・天井の補修、同じ範囲の配線や照明
  • 後からでも進めやすいもの: 支障のない壁面の装飾、一部の家具更新、追加のサイン

後回しにすれば必ず安くなるわけではありません。床を仕上げた後に配線工事を行えば、再び家具を動かすことになります。削減案を施工会社と検討し、二度手間になる部分を先に見つけておきましょう。

8.

契約・設備・事前調査を確認し、使い始めてから調整する

8-1.管理会社の承諾と、必要な法令確認を早めに進める

賃貸オフィスでは、壁、床、天井、設備をどこまで変更できるかを管理会社へ確認します。指定業者の有無、原状回復の範囲、工事時間、図面提出の条件も、見積もりの前提になります。

部屋を区切る場合は、感知器、スプリンクラー、誘導灯、警報、避難経路への影響を消防設備の担当者と整理します。建築側の排煙や非常用照明なども含め、必要な相談・届出・検査を工程へ入れます。管理会社の承諾だけで、法令の確認まで済むわけではありません。

また、建材に手を加える解体・改修工事では、石綿の事前調査も確認事項です。小規模だから一律に不要とはならず、調査対象と方法、調査者の要件、報告の要否を施工会社に確認します。厚生労働省の案内でも、小規模な張り替えや原状回復工事などに関する事前調査が示されています。

8-2.完成後は、見た目より「仕事が回るか」を確かめる

家具と機器を置いた状態で、通路、書庫の開閉、会議室の音、照明、通信、空調を確認します。工事前に困っていた場面を同じように試せば、改善したかどうかがわかります。

社員が増える前に机だけ並べて終わらせず、予約方法や収納場所、新しい避難経路も共有しましょう。完成図や設備資料、手続きの控えは保管し、次の変更や退去時に使える状態にしておきます。

利用が始まった後には、会議席の不足、通路の混雑、暑さや音の不満を聞き、家具配置や運用で直せる部分を調整します。工事ですべて固定せず、動かせるものを残しておく価値はここにもあります。

移転せずに改善できるかは、今のオフィスでどれだけ席を増やせるかだけでは決まりません。残せる家具と設備を見極め、動線を組み直し、必要な場所へ予算を使う。さらに、営業中の工事と将来の変更まで考えることで、今の場所を使い続ける案を、具体的な選択肢として比較できるようになります。